PLM と ERP の統合: 主な違い、メリット、課題

12/12/2023

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現代の企業が製造、品質、財務の目標を達成するには、さまざまな技術を同期して活用する必要があります。製造業で最も基本的な 2 つのシステムが製品ライフサイクル管理 (PLM) とエンタープライズ リソースプラニング (ERP) であり、これらを統合することが最優先事項となります。

PLM の概要とメリット

PLM は、組み立て製品の開発と、ライフサイクル全体にわたる継続的なサポートを管理するためのシステムです。製品の構想、製品設計、エンジニアリング、プロトタイピング、製造、サービスというあらゆる段階が PLM の対象領域です。製品エンジニアリングでは、特に複雑な設計においてコラボレーションとイノベーションが重要ですが、PLM は役に立つだけでなく、ミッションクリティカルな存在です。

ERP の概要とメリット

PLM は製造業者の製品開発にとって重要ですが、ERP は基本的により包括的なシステムです。幅広いビジネス分野やプロセスを対象にしており、サプライチェーン管理、経理、会計、人事、顧客関係管理 (CRM) などを単一のシステムに統合できます。このような領域のさまざまな相互依存性をシームレスに管理し、効率を向上させます。ERP の目的は、プロセスの合理化と自動化、データの一元化により、多くの情報に基づく意思決定を可能にし、企業全体のリソース管理を強化することです。

PLM と ERP の違い

PLM と ERP では、管理対象のビジネス業務が異なります。製造業者にとって、統合した両システムが迅速かつ明瞭に通信することが重要です。一方が完全に最適化できるかどうかは、もう一方の成否にかかっています。両システムは相乗的な関係にあるといえます。これら 2 つのシステムを効果的に統合してはじめて、統合環境の価値を最大限に引き出すことができます。

PLM と ERP の連動

PLM と ERP をうまく統合すれば、高いレベルで相互に補完し、それぞれの価値を保ちつつ、互いの価値を高め合うことができます。商用利用できる PLM と ERP はたくさんあり、その多くは特定の業務向けに構成されていますが、これら 2 つのシステムの「役割分担」は明確です。構想から最終的な製造用設計までの製品ライフサイクルは PLM が管理し、製品の製造や流通の準備が整ってからは ERP が直接的な影響力を持ちます。この間、情報が行ったり来たりしますが、両システムはそれぞれのタスクを別々に実行します。

PLM と ERP を統合する方法

一方のシステムの得意分野の業務をもう一方のシステムで実行しようとすると、多くの場合、問題が生じます。たとえば、デジタルスレッドベースの環境に不可欠なデータについて言えば、多くの企業があらゆるデータを ERP だけで管理しようとしています。一方、従来のようにエンジニアリングデータだけでなく、社内全体にわたり、製品固有のあらゆるデータのリソースとして PLM を使用している製造業者では、もっとうまくデータを管理できるでしょう。

PLM と ERP の統合を検討する際は、それぞれの業務に適切なツールを割り当てる必要があります。各システムの個別のメリットを最大限に引き出すために、作業や部門に合わせて導入するシステムを選択するようにしましょう。

PLM と ERP を統合するメリット

PLM と ERP を適切に統合し、作業や部門に合わせてそれぞれを割り当てることができれば、企業はその可能性を最大限に引き出すための体制が整ったといえます。前行程と後工程のプロセスやさまざまなシステムで作業するユーザーグループを効果的につなぐことで、効率性、コスト、規制遵守、さらに生産性、品質向上などの領域で真のメリットを得られます。

効率の向上

PLM と ERP の統合により、データの再入力という非効率な作業の大半がなくなるため、プロセスに付き物である人為的ミスの発生も抑えられます。瞬時に目に見えるメリットではないものの、PLM では、部品表 (BOM) や製品データをすべての部門が必要なときにいつでも取得し、リアルタイムかつ正確に共有できます。その結果、上述したように、前工程と後工程のプロセスがつながり、効率性と生産性が向上します。

コラボレーションの強化

プロセスと部門をつなぐことで、従来のコミュニケーション方法で生じがちな摩擦が大幅に軽減されます。当然の結果として、コラボレーションが強化されます。たとえば、製品設計チームの意思決定、行動、意図を調達チームがリアルタイムに把握できるため、サプライヤーの調整が必要な場合にスムーズかつ正確に行えます。PLM がコラボレーションツールとして強化されることで、設計エンジニアリングの内外でイノベーションがますます加速していくでしょう。

コストの削減

効率、コラボレーション、イノベーションが強化されることで、コストが大幅に削減されます。この効果はすぐに表れます。コスト削減は競争力の強化につながり、企業はより多くの市場シェアを獲得し、売上利益を伸ばすことができます。

顧客満足度の向上

顧客満足度の向上も、製造業者が PLM と ERP を効果的に統合することで得られるメリットの 1 つです。顧客が製品の設計と製造に関する意思決定の影響をより深く理解できれば、自身のビジネスに関する計画をより効果的に立てられます。それに伴い製品品質も向上し、メーカーと顧客、および各ブランドの関係性が強化されます。

規制遵守

規制環境が複雑になり、地域や業界固有の差異も相まって、製造業はますます金銭的な負担を強いられています。PLM と ERP が統合されることで、規制を遵守し、収益への影響を抑えるための堅牢なフレームワークとなります。データの一元化やアクセス性の向上により、規制遵守のプロセスが合理化されます。

一貫性のあるデータ処理により、企業全体で精度が向上し、エラーが減少します。また、変更管理機能が強化され、規制要件の変更にも効果的に調整、対応できるようになります。レポート作成機能が強化されることでトレーサビリティと説明責任も強化され、規制遵守に関する潜在的なリスクを特定し、対処できるようになります。全体として、規制遵守関連のコストが膨らみがちであることを考えると、このようなメリットはコスト効率の向上につながります。

PLM と ERP の統合に伴う課題

PLM と ERP の統合にはメリットがあり、ミッションクリティカルでさえありますが、主要技術に関する取り組みと同じように、成果を出すには課題を克服する必要があります。重要な技術プロセスでは、ビジネス上の期待を調整する、十分な社内トレーニングを実施する、(必要に応じて)サードパーティーのパートナーに関与を求めるなどの対応が役立ち、プロジェクトの成功に大きく貢献すると思われます。ただし、このような対応を取ることができなければ、反対の結果が待っているでしょう。

統合における主な技術的課題としてあげられるのは、部門によって異なるデータの形式や定義に対応すること、そして統合または移行したデータをクリーンに保つことです。システムを構造化し、バージョンとリリースの管理をサポートする必要もあります。このような変更は、IT 環境全体のすべてのコンポーネントで同時に発生しないからです。システムを統合したあとも、アップグレードプロセスを通じて全体が機能し続ける必要があります。

統合を成功に導くには、このような課題を理解し、備え、積極的に対応することが重要です。PLM と ERP の統合戦略を正しく定義し、細心の注意を払って各システムに適切な業務を割り当てることで、製品開発から製造、流通、さらにその先まで、データとプロセスをスムーズに移行できます。

PLM と ERP に関するよくあるご質問 (FAQ)

ビジネス目標や ERP に対するアプローチは製造業者によって異なりますが、ここでは、問い合わせの多い質問とその回答を紹介します。

PLM と ERP は両方必要ですか?

競争力の強化と維持を目指している組み立て製造業者であれば、ほとんど場合、答えは「はい」です。うまく統合することで、両システムの「役割分担」は最善の成果をもたらし、上述したように、高いレベルで相互補完的に連動します。

PLM は ERP の一部ですか?

いいえ。ただし、ある意味、PLM と ERP は統合システムとして機能します。上述したように、PLM は、構想から製造、サービスに至る製品ライフサイクルを管理するために開発された個別のソフトウェアツールです。ERP は、幅広いビジネスプロセスを管理し、PLM に必要なデータを提供します。ERP 自身も、意図された機能に必要なデータがあれば PLM から引き出します。

PLM の前に ERP を導入する必要がありますか?

必ずしもそうとは言えません。統合の第一段階として、まず一方のシステムを導入するかどうかは、主に現在の戦略やビジネス目標など、多くの要因によります。上述したように、ERP は用途が幅広く、多くの部門が関与するため、導入までにより多くの時間とコストがかかります。しかし、サプライチェーン、在庫、運用効率、財務の管理が主な目的であれば、ERP から始めるのが戦略的に正しい選択です。

一方、製品開発、設計、イノベーションの促進、規制遵守、市場投入までの期間などの問題が当面の優先事項であれば、PLM から始めるのが理にかなっています。第一歩として導入しやすいのは PLM です。それほど複雑でなく、コストもかからず、的が絞られており、素早く導入できるため、短期間での成果を期待できます。

PLM と ERP を統合するにあたり、どのような事前準備が必要ですか?

統合を成功させるには、導入プランを戦略的に考え、正確に計画し、注意深く実行することに尽きます。上述したように、企業によって状況は異なるため、いくつかの基本的な検討事項をプロジェクトに当てはめてみてください。完全な統合によりてこ入れが期待される各目標を、統合後に達成するために最も効果的なツールを早い段階で特定します。両システム間のインターフェースを計画する際は、ほかのアプリケーションで製品データをスムーズに利用できる仕組みを検討し、尺度、通貨、サプライチェーンのすべてのベンダー、その他のデータ変数など、関連する単位を揃えましょう。

PLM と ERP の統合ガイド

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Tags: 製品ライフサイクル管理 (PLM) Windchill デジタル スレッド 企業間コラボレーション QMS PLM で品質改善

執筆者について

ジェフ・ゼムスキー(Jeff Zemsky)

ジェフ・ゼムスキーは Windchill デジタルスレッド担当副社長です。彼のチームは、ナビゲーション、ビジュアリゼーション、Windchill UI、デジタル製品トレーサビリティを統轄しています。PTC に入社する前は、産業、ハイテク、消費者製品の企業で PLM、CAD、CAE の導入と活用を 16 年間担当し、2002 年には Windchill PDMLink の最初の導入を主導しました。また、PTC/USER コミュニティでも積極的に活動し、Windchill Solutions 委員会の委員長や PTC/USER の理事会メンバーとして、お客様の意見をまとめ、ツールやプロセスについて人々が連携できるコミュニティの形成に貢献しました。レンセラー工科大学およびリーハイ大学で学びました。