近年の国内の製造業では、少子高齢化を背景とした働き手不足、高度経済成長期を支えてきたベテラン技術者の引退と技術継承といった人材に関する課題に悩まされています。加えて、情報化社会に生きる消費者の嗜好の多様化と市場の激しい変化を受け、製造業は大量生産から少量多品種生産にシフトしています。それに対応するために、国内製造業でも 3D CAD や PLM、生産管理システムなどを導入するなど設計・製造のデジタル化が進んできました。
しかしながら、欧米諸国の企業と比較して、その進捗は後進であるといわれ続けてきており、国内製造業の 8 割を占める中小企業も含めて業界全体を見渡せば、依然として紙や PDF などのアナログな情報を主体とした業務が多く残っています。それが、国内製造業における業務効率向上や技術継承などを妨げているとよく言われます。一見、最先端の IT が浸透していそうな大手企業においても、拠点ごとでその状況が大きく異なる場合もあります。
このような状況から脱却を図るべく業務改革を推進しようとする大手メーカーの経営者や、そこに対して IT システムを提供する IT ベンダーから頻繁に聞こえてくるのが、「デジタルトランスフォーメーション」や「DX」という言葉です。国内においては、この数年間で、急にたくさん聞こえるようになりました。
当時の定義は、「人々の生活のあらゆる側面に、デジタル技術が引き起こしたり、影響を与える変化のこと (The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.) 」(※1)ということでした。
※1 出典:デジタルトランスフォーメーション研究所
経済産業省は、先の DX レポートの中で、DX の定義について、「DX に関しては多くの論文や報告書等でも解説されている」としつつ、調査会社の IDC Japan が発表していた定義を引用していました。
「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」(※2)
※2 出典:Japan IT Market 2018 Top 10 Predictions: デジタルネイティブ企業への変革 - DX エコノミーにおいてイノベーションを飛躍的に拡大せよ, IDC Japan プレスリリース, 2017年 12 月 14 日
IDC の定義では、クラウドコンピューティングやモビリティ(乗り物)、ビッグデータなど、固有の技術名を挙げており、最新 IT やテクノロジー系の調査を得意とする同社らしい表現になっています。このような技術を駆使して、「これまでになかった新しい製品やビジネスを創出し、インターネットと現実世界の両面で、カスタマーエクスペリエンス(CX:顧客経験=顧客がモノを買い、捨てるまでの間の、顧客が得られる体験や価値のこと)をより良いものに変革しよう」「それを実現する製品の提供側は、市場での優位性を得られる」ということを説明しています。
富士通は、総合エレクトロニクスメーカーで IT ベンダーでもある大手企業です。同社製品開発における課題としては、市場環境変化による製品の多様化およびカスタマイズ化への対応、納期の短縮化への対応、製品の複雑化・高密度化への対応、技術継承の継続強化がありました。製造現場における課題には、「日本でものを作ることへのこだわり」から、ノウハウ伝承、人不足への対応がありました。全社的には、調達・管理コスト削減、設計者の高齢化・サイロ化による個人差低減、災害対応によるBCP強化のための事業部間の連携強化が課題でした。事業部ごとに特定の製品を特定の工場で生産しており、事業部間の連携や共通したルールは存在しなかったといいます。
大手自動車メーカーのトヨタは、過去より 3D CAD データや試作時の特性データなど、個々の情報のデジタル化を行い、技術開発・生産準備に成果を上げてきました。しかし、実際の製造や、顧客から得たデータの技術開発へのタイムリーなフィードバックに苦戦していたといいます。「インダストリー 4.0」や、自動車業界での非自動車メーカーの台頭などの社会変化を受け、危機意識を持ち、全社的なデジタル化を検討しています。