今日の製造施設は例外なく、それぞれが独自の製造施設として存在します。利害関係企業の大規模な工場ネットワークの一部であっても、単独でのオペレーションであっても、同じように機能する工場は 2 つとありません。各施設を効果的に管理するには、製造する製品に適したシステムだけでなく、場所、従業員、サプライチェーン構造、規制機関など、固有の要件に合致したシステムを組み合わせる必要があるからです。
このように、業務を円滑に運営するにはいくつもの独自要件を満たした物流システムと製造システムが必要ですが、これらを統合するのは難しく、コストもかかります。このような状況では、プロセスの個々の必要性を反映しようとした結果、結局は同じくらい複雑な情報システムが構築される懸念が生じます。急速に進むシステム統合に一定の標準規格を設けるため、20 年以上前、国際計測制御学会 (ISA) はアクティビティベースの ISA-95 規格 (IEC 62264) を開発し、製造オペレーションを構成する異なるシステム間をどうつなぐべきかという難題に対応しました。
過去のブログでご紹介してきたように、この数十年で、生産性を向上させるための工場業務全体が大きく複雑化し、製造実行システム (MES) が注目されるようになりました。MES とは工場で生産される製品を監視および追跡するシステムで、1992 年に AMR Systems 社によって名付けられました。導入が進むにつれ、納期の遵守、品質の向上、最終収益の向上といった効果が発揮され、その有用性が証明されています。
しかし、このようなシステムが製造業全体にとって洗練された高性能なシステムになっていけばそれだけ、競争優位性を確保できるメーカーも限られてきます。MES をうまく調整して技術スタック全体に統合すれば、それだけでまた市場で優位に立てるでしょうか?製造オペレーションを改善し、競合他社に打ち勝つ次の機会はどこにあるのでしょう?
PTC が 2021 年に発表したThingWorx Digital Production Management (DPM) は、製造実行システム (MES) を補完し、より良い意思決定のための可視性を高めてインサイトを生成する、革新的な統合ソリューションです。DPM と MES はいずれも工場でのオペレーションに焦点を当て、企業のビジネス成果を向上させることを目的とします。そこで、製造業の多くにとってまず気になるのは、「何が違うのか」ということでしょう。これはもっともかつ、論理的な疑問です。
話を進めます。MES の目的を一言でいえば、スケジュールを重視した作業を効率的に行うということです。もちろん、ERP システムでもスケジュールは作成できます。しかし、MES が発展した背景には、今日の作業現場があまりに複雑かつ変化の多い環境であり、ERP を効果的に現場に根付かせ業務の処理や管理をするのは難しいという認識があったからです。MES なら ERP のスコープ以上のレベルの変化や重要な細部を考慮できます。
DPM は MES の機能を土台とし、性能、生産能力、生産性をさらに最適化します。それぞれが固有のシステムで、ほかのシステムを補完します。MES のデータは DPM システムにとって重要なインプットなのです。DPM の核となる特性は、オープン性です。つまり、現在の技術スタックと効果的に統合し、PLC、SCADA、ERP、MES といった構成システム全体の価値をより高めることができるのです。
構成上、DPM は既存のシステムに追加して拡張しますが、MES システムには通常「総入れ替え」のアプローチが必要です。両者を比較すると、DPM は迅速かつ簡単に導入できるため、リスクも非常に低いです。資本投資の観点からは、DPM なら価値創出までに数週間から数カ月しかかかりませんが、MES の場合は何カ月も、ときには何年もかかる可能性があります。
DPM と MES は完全な補完関係にありますが、両者の特性ははっきりと異なります。そのことを示すため、それぞれに特有のコア機能を以下の表で概説します。
DPM |
MES |
ボトルネックの特定、優先順位付け、追跡 |
製造スケジュールの設定と命令の実行 |
セルとプロセスの性能分析 |
プロセス内の品質管理 |
損失生産時間の追跡 |
マシンデータの収集 |
改善機会の定義 |
在庫レベルの監視 |
損益と関連付けられた製造処理能力の向上度合いのトラック、測定、確認 |
規制要件を遵守するための追跡およびトレース機能の実行 |
両システムはコスト、難易度、リスク面でのシステムプロファイルは異なりますが、DPM は 5% から 20% の効率向上という、MES に匹敵するビジネス成果をもたらしました。DPM はクローズドループ型のアプローチにより、時間に基づくインサイトを活用して業務をリアルタイムで可視化します。これにより、現場レベルでの意思決定がこれまで以上にビジネス成果に影響を与えます。