編集注記: この記事の初版が公開されたのは 2022 年 10 月です。2023 年 11 月に新たな情報を加筆し、更新しました。
サイロとはもともと、農場にある高くそびえる塔のような倉庫で、貯蔵された穀物は外界と遮断されます。「サイロ」と聞いてこれを思い浮かべたなら、データサイロという概念を理解するのはそれほど難しくないでしょう。農場のサイロより抽象的ですが、ここで取り上げるサイロは、チームが所有するデータの保管庫のうち、分離されていてチームの外からはアクセスできないものを指します。データは複数の異なるシステムに保存され、多くの場合、これらはほかのデータセットと互換性がありません。その結果、企業内のほかのチームが持つデータへのアクセスやコラボレーションが困難になり、製品ライフサイクルプロセスを合理化する機会が失われます。
情報サイロとデータサイロは同じ意味で使われることもありますが、厳密には違いがあります。データサイロは、システムに互換性がないためデータにアクセスできないなど、主に技術的な課題です。一方、情報サイロは、データを分離しておくための意図的な試みです。それぞれのチームのサイロ内にデータをとどめておく必要があると感じる背景には、セキュリティリスクに不安を抱いていたり、情報アクセスに価値を見出していないなど、さまざまな理由があります。
企業全体のコラボレーションには、透明性と接続性が必要です。データサイロは情報を分離させるだけでなく、大きな摩擦を生み出し、イノベーションやチームワークを阻害します。各部門がそれぞれの業務への影響を確認しているうちに、大小問わず、意思決定に遅れが生じます。データがサイロ化していると、互換性、品質管理、顧客満足度で大きな問題が発生するのは言うまでもありません。
当たり前かもしれませんが、通常、製品開発プロセスでは複数のチームが同じデータを共有します。しかし、データセットにアクセスできず、互換性がない場合、各チームはそれぞれのシステムにデータを複製するようになります。この方法では、コラボレーションが阻まれるばかりか、チームのデータが古くなり、一貫性や正確性を欠き、その後の生産性に問題が生じるリスクさえあります。さらに、重複データは貴重なデータストレージを消費するため、企業はデータ保持のために余分な IT リソースへの出費を強いられます。
設計者と製造エンジニアが各自の業務プロセスで別々のデータ管理システムを使用している場合、データを共有する必要が生じた際、コラボレーションの壁に直面するのは避けられないでしょう。設計者が何らかの変更をしても後工程には伝達されず、製品品質の低下や市場投入までの期間延長など、さまざまな問題が発生することになりかねません。
データが分離していると、最終的に生産性に悪影響が及びます。別のチームのサイロに含まれるデータが必要な場合、そのデータを探し、要求して、取得する権限を得なければなりません。そしてようやく取り扱えるようになります。お役所的な単純作業が生産性を損ない、データを活用するための時間を浪費するのです。
データ管理が個別のチームに任されている場合、データの漏洩や侵害のリスクが高まります。一元管理されたシステムがない企業には、セキュリティ全般に対処する専門チームはなく、脅威に対応するための行動指針も確立されていません。データサイロを放置しておくと、データのプライバシーや保護に関する法律に違反するおそれもあります。
データサイロにより、多くの企業には不完全なデータセットがあふれています。たとえば、ある部門が別の部門の業務に関連するデータを収集しても、共有しなければ、その別の部門は不完全なデータセットを使用していくことになります。このような行為がデータの冗長性を生み、データガバナンスを悪化させます。
データサイロはデータの冗長性を生み、さまざまな形でデータの一貫性を損ないます。同じデータでも、バージョン管理や標準化が欠如していると、取り扱っている部門によってバージョンが異なる場合があります。同様に、データの定義が部門によって異なっている場合や、手動でのデータ入力によるミスが発生する場合もあります。データサイロには検証と調整のためのリソースが不足していることが多いため、データの整合性には疑問符が付きます。
サイロ思考に陥ると、企業内のさまざまなチームが別個に稼働し、部門をまたいだコミュニケーションやコラボレーションが制限されます。さまざまな部門がサイロ思考に陥るのは、多くの場合、データサイロが原因です。この 2 つの概念は密接に結び付いています。部門間のつながりが制限されると、コミュニケーションの障害や優先事項のばらつきが生じます。最終的に、敵対的な環境が助長され、各部門は各自のデータを守るようになり、共通の目標のためにデータを共有しようとしなくなります。
想像を絶する速さで技術が進歩する中、一部の企業はいまだに従来のシステムを利用しています。旧式の IT インフラは時代遅れのシステムであり、接続性や新しい技術との統合機能に欠けています。それでもまだ利用する企業が多いのは、使い慣れているため、使い勝手がよいため、カスタマイズされているため、または技術的にまだ機能しており、てこ入れの必要がないためです。パイプの液漏れと同じように、このようなインフラが引き起こす問題は気づきにくく、気づいたときにはもう手遅れになっています。古い技術に伴う連携不足により、いつのまにかチーム間に分離とデータサイロがもたらされているのです。
IT 戦略と技術の導入は企業の効率化につながりますが、データサイロを生み出す原因にもなりえます。カスタマイズされた技術ソリューションはある環境の特定のニーズを満たしても、既存のデータツールと十分に統合できないことが多々あります。従来のシステムとうまくかみ合わないデータソリューションを新たに導入してしまうというケースもあります。さらに、新しいシステムのオンボーディングが不十分だと、社員が使い慣れた元の技術に戻ってしまう可能性があります。
データサイロはどこにでも生じる可能性がありますが、急成長や合併を遂げた大企業に多く見られます。成長に対応するためワークフローの効率化を急ごうと、必然的に、多くの社員が何らかの分野に特化したチームに振り分けられていきます。企業に一元管理されたプラットフォームがない状態で、このようなチームがそれぞれ独自のデータ管理フォームを作成した場合に、問題が生じます。チームはデータを速やかに製品ライフサイクル全体に伝達し、共有する必要がありますが、チームごとにシステムが異なるため、思うように進みません。
階層的な組織構造では、各部門が自律的に機能し、部門ごとにデータを収集、管理します。企業のデータ環境を包括的な視点で見ることがなく、データサイロにつながりやすいといえます。繰り返しになりますが、さまざまな部門が独自のデータシステムを接続せずに使用している企業では、情報が企業全体に流れていきづらくなります。
企業全体の目標において個別の部門の成果が非常に重視される場合、社員は所属部門が有するデータやリソースの保護を最優先に考えるかもしれません。オープンなコミュニケーションやコラボレーションに重きを置かない企業文化では、データ管理の強化は簡単ではありません。
たとえば、ほかの部門やシステムからアクセスできない情報があれば、その場所のデータアーキテクチャーや慣習を確認してみましょう。データサイロの典型的な兆候としては、個別または独自のデータベースがある、部門間のデータ共有が制限されている、冗長なデータ収集、データの形式や定義に一貫性がないなどがあげられます。また、企業全体の業務を包括的かつリアルタイムに確認できない場合は、データサイロが生じている可能性があります。綿密なデータ監査を実施し、部門をまたぐコミュニケーションを確立して、データサイロへの対応を強化しましょう。
データサイロを解消するには、使用中の各種データ管理システムを集約する必要があります。デジタルスレッドの構築を肯定的に受け止めてもらえるように、また、企業全体にメリットがもたらされるように、利用者の意見に耳を傾けましょう。
データガバナンスモデルを確立すると、データサイロの再発を防止し、コラボレーションを強化できます。このフレームワークでは、企業内でのデータの収集、保存、活用方法を明確にします。ルールとプロセスを定め、プライバシーと規制遵守を確保し、セキュリティリスクを最小限に抑えます。
データ管理システムの集約と同じように、ほかの製品開発およびビジネスシステムに接続して、エコシステム全体で同一かつ最新の製品情報に基づいて作業することが重要です。利用者は、ミスの生じやすいデータの重複入力作業という負担から解放されます。
企業全体の利用者が変化に難色を示し、現在のシステムから移行したがらない場合、デジタルスレッドへの移行はチャンスではなく、課題になってしまいます。このような状況は、本人たちをプロセスに関与させることで改善できます。データ管理システムの集約をどのような形で行うべきかについて、社員の意見を収集します。ソリューションを選択したら、新たなシステムに関する適切な教育とトレーニングを行います。
ここまでデータサイロとその問題について解説してきました。最後に、効果的な解消方法をご紹介します。データサイロを解消するには、製品ライフサイクル全体にデジタルスレッドを構築する必要があります。デジタルスレッドはデータへのユニバーサルアクセスを提供し、求められる一貫性とコラボレーションを可能にします。まず、デジタルスレッドの基盤として、製品ライフサイクル管理 (PLM) を確立し、基本システム間にシームレスな情報フローを構築することが重要です。ThingWorx Navigate は高性能な PLM ツールで、単一のプラットフォームにデータをシームレスに統合します。このソフトウェアを使用すれば、製品データへの簡単なアクセス、データの一般化、柔軟な導入オプションにより、デジタルスレッドに簡単に移行できます。
Windchill は、標準的な機能を特別な設定不要で使用できる PTC の PLM ソリューションで、企業の IoT や ERP システムと簡単に統合できます。このソフトウェアは、企業内外のすべての関係者をサポートするように最適化されており、セキュアなコラボレーション、合理化されたアップグレード、最新のアーキテクチャーによる大規模なデータ管理など、高度な自動化と相互運用性で部門を超えた構成管理を可能にします。プロジェクト管理のリードタイムを短縮し、品質不良のコストを削減できます。
データサイロは生産性を低下させ、無用なミスを招き、利用者を孤立させ、データプライバシーを危険にさらします。データを一般化し、利用者間のコラボレーションを強化するには、PLM を基盤とするデジタルスレッドの構築が重要です。デジタルスレッドでデータサイロを解消すれば、企業はワークフローの合理化や製品品質の向上などのメリットを得られます。