課題
  • 複雑な部品を 3D で製造できない
  • 2D の設計プロセスにより不具合が多発
  • 製品ライフサイクル全体で非効率な部品とデータの管理
  • 技術革新や最適化を迅速に行えない
  • 潜在的な問題を正確に特定できない


自動車レースでドライバーが優れたパフォーマンスを発揮するには、コーナリング、加速、オーバーテイクといったスキルを磨かねばなりません。エンジニアリングチームの力も不可欠であり、レースに勝てるマシンをつくるためには、設計におけるイノベーションを日々加速させる必要があります。これこそ、CUPRA 社が追求する分野です。CUPRA 社は PTC の CAD および PLM ソフトウェアを導入して自動車部品の設計と製造を最適化し、自動車レースに足跡を残し続ける高いパフォーマンスを実現しています。

CUPRA 社: スポーツカーおよびレースカーブランド

CUPRA 社は 2018 年、バルセロナで設立されました。刺激的なスタイルと現代的なパフォーマンスをベースにした挑戦的かつ型破りなブランドであり、革新的なマシンとドライビング体験で世界を魅了しています。

CUPRA 社は 2021 年、ワールドツアー、ヨーロッパシリーズ、国内シリーズ、チャンピオンシップなど、そのシーズンに予定されていた TCR(ツーリングカーレース)の 70 レースに参加しました。また、電動化戦略も並行して進め、エクストリーム E や PURE ETCR などのレースにも参戦。世界初の 100% 電動ツーリングカーである CUPRA e-Racer の開発は、CUPRA ブランドの技術力が初めて試されるプロジェクトとなりました。その目的は、電動レーシングカーの今後の開発に役立てること、そして公道仕様車に応用される高性能電気モーターに関する知識を得ることでした。


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設計画面から現実へ

サーキットで相手を凌駕する自動車を作るには、数えきれないほどの努力と献身が必要です。それには、自動車部品の設計および製造プロセスへの注力も含まれます。

CUPRA 社のこの取り組みに転機が訪れたのは、1998 年に、当時 Pro/ENGINEER と呼ばれていた PTC のパラメトリックソフトウェアを利用し始めた時でした(当時は前身の SEAT Sport 社が使用)。CUPRA 社が PTC のソフトウェアを導入するまでは、複雑さが原因で設計できない部品がありました。PTC のパラメトリックソフトウェアには、CUPRA 社が必要としていた、部品の進化を大幅に迅速化する機能とパフォーマンスをテストする機能がありました。「PTC のパラメトリックソフトウェアは画期的でした。まさに、設計のあり方が変わったのです。効率化が進み、変更を簡単に実装できるようになりました。部品開発のリードタイムが劇的に短縮され、品質も向上しました」と CUPRA 社の完成車設計部門責任者 Jaume Tarroja 氏は説明します。

PTC の Creo による飛躍的な進化

当初は、ソフトウェアの基本的機能のみを使用していました。設計要件の高度化に対応してモジュールを追加したことで、新しい自動車部品の設計がより快適かつ迅速になりました。「以前は 2D で部品を設計し製造に送っていたため、よく不具合が発生していました。今は、部品をすべて組み立てた状態の車体を 3D で確認しています。コンピューターの画面上で車体全体を視覚化するわけです。デザインを変更しなくても、非常に安定した環境内で車体を修正できます。これは当社にとって大きな前進でした」と Tarroja 氏は言います。

CUPRA 社のチームは、主に 4 つの領域で Creo ソフトウェアを活用しています。

  • トップダウン設計: トップダウン設計では、設計者はスケルトンモデルを使用して自動車の全体構造を定義できます。これに関連して、設計者は、スケルトンモデルの再設計またはバリエーション作成が行われた場合、変更はすべての部品に自動的に実装されるというさらなるメリットを使用して、部品の設計と組み立てもできます。スケルトンモデルにはキネマティックメカニズムが含まれているため、設計者は自動車の実際の動作を迅速にシミュレーションし、部品間に干渉や衝突がないか判断できます。CUPRA 社は、この基本ステップによって多くの不具合や時間のかかる設計の繰り返しを排除できるようになりました。
  • 有限要素部品のシミュレーション: 実用環境で部品にかかる応力を設計者がシミュレーションできます。設計が適切かどうかや弱点になりそうな箇所の有無をきわめて正確に確認できます。
  • 板金: 金属部品の製造を合理化します。CUPRA 社は初期の段階からこのオプションを用いて部品の軽量化、性能の向上、経費削減を実現しました。
  • 配管および配線: 電気配線や冷却機構のレイアウトをシミュレーションできるようになりました。以前は試作を作成し、サプライヤーに提供して複製してもらっていた CUPRA 社にとって、これは大きな前進になりました。PTC のソフトウェアにより、配線システムや配管を含むすべてを社内の設計者がコンピューターでシミュレーションできるようになったため、製造された部品はすべて初回テスト時から正常に機能します。

cs-cupra-car-leon-competition-orangeCUPRA 社の部品設計では、パラメトリックサーフェスやフリースタイルフィーチャーも用いられています。これらの機能では、開発した部品のカーブや形状を自由に成形できます。このような成形に使用されるのは、既存の形状を変更せずにサーフェスの高度な制御と精密な調整ができるサブディビジョンモデリングフィーチャーです。

上記の機能に加え、CUPRA 社のロードマップには、競争力アップにつながる Creo の新機能が組み込まれています。AI に基づくジェネレーティブデザイン、付加製造設計の最適化、ビヘイビアモデリングなどの新しいモジュールが実装される予定です。「機械部品を扱う環境では、Creo の安定感と正確性は群を抜いています」と Tarroja 氏は述べています。

このような Creo の活用に加え、CUPRA 社は PLM ソリューションとして PTC の Windchill ソフトウェアを導入しています。Windchill は、製品の初期構想から設計、製造、最終メンテナンスに至るまで、部品のライフサイクル全体で、データとプロセスを費用対効果の高い方法で統合する情報管理システムです。

CUPRA 社では、2014 年にこのソフトウェアを導入したことが製品管理の大きな改善につながりました。Windchill では、部品や完成車を修正し、ワンクリックで最新バージョンをチーム全体に共有できます。これにより、不具合を削減し時間を短縮できました。

cs-cupra-car-leon-competition-orange-back部品設計と製造プロセスを最適化してきた 20 年

CUPRA 社は PTC のソリューションを 20 年以上使用しており、その成果に非常に満足しています。Tarroja 氏は「競争の激しい世界では、今年製造した自動車でも来年にはさらなる改善が必要になります。製造コスト削減のためにも、常に改善を続ける必要があります」と述べていますが、PTC のソリューションはその改善に大きく貢献しています。「PTC の設計ツールは業界とともに進化しており、それが当社にいっそうの改善の可能性をもたらしています」と Tarroja 氏は指摘します。

CUPRA 社へのメリットは上記にとどまりません。たとえば、部品設計がより効果的になりました。「コンピューター上で 3D で部品を作成し、製造に入る前に応力試験を実施できるため、設計の不具合の削減につながります。そのため、製造された部品は初回テスト時から正常に機能します。その結果、新車の市場投入までの期間を 20% 以上短縮できます」と Tarroja 氏は述べています。

cs-cupra-office-building同時に、CUPRA 社は部品を軽量化し、設計プロセスを最適化しています。実際、部品の機械的特性を損なうことなく重量を約 10% 最適化できます。この改善には、主に有限要素モジュールを利用しています。Creo の優れた板金機能により、全体では部品コストが約 15% 削減されました。

さらに、設計と製造の期間も短縮されました。その好例はスタブアクスルの開発です。これは非常に複雑な部品で、フロントアクスルまわりのあらゆる要素の連動を支えます。CUPRA 社は PTC の Creo を使用し、軽量化と機械的特性の維持を両立させて部品を改良しました。「複雑さと数量次第で部品の開発期間は変わりますが、PTC の Creo があれば 2 週間以内に部品を製造に回せるケースもあります」と Tarroja 氏は説明します。

以上のすべてを活用して、CUPRA 社は PTC の Creo とともにレースの世界を切り拓いています。