課題 メーカーがデジタルトランスフォーメーション (DX) を実現する方法は二つあります。一つは、製造施設ごとに独自のアプリケーションを開発して一貫性のない結果を出す方法。もう一つは、効果の高い共通のユースケースに注力して大規模に価値を生み出す方法です


Eaton 社、トップダウンの戦略と企業全体に迅速に拡張できる効果の高いユースケースの導入によりインダストリー 4.0 への変革を加速

インダストリー 4.0 変革を達成するには強固なデジタル基盤が必要

多くの工場を所有するメーカーがデジタルトランスフォーメーション (DX) を実現する方法は二つあります。一つは、製造施設ごとに独自のアプリケーションを開発して展開する方法です。ただしこの場合はユースケースが多様化し、結果に一貫性がなくなります。もう一つは、すべての製造施設に価値を生み出す、効果の高い共通のユースケースに注力する方法です。世界中に 200 カ所以上の製造施設を構える Eaton 社は、PTC の Factory Insights as a Service の標準化された産業 IoT アプリケーションを活用して変革を加速することにしました。その結果、短期間で成果を上げ、さらにユースケースを追加するためのデジタル基盤を構築できました。

インダストリー 4.0 (I4.0) 技術を活用することで、現代の製造業は効率性を向上させ、俊敏性を強化し、競合会社をしのぐ業績を実現できます。しかし、変革は一夜にして実現できるものではありません。既存の能力を精査し、幅広い I4.0 ユースケースのための基盤である接続性および IT/OT 統合デジタルプラットフォームを構築する必要があります。メーカーは強固なデジタル基盤をベースに、企業全体に拡張し効果を最大化できる、一貫性のる反復可能なプロセスを開発することで、極めて大きな価値を実現できます。

Eaton 社は、拡張性に優れた効果の高いユースケースを導入することで変革を行った企業の代表例です。1911 年に設立された Eaton 社はインテリジェント電力管理会社です。エネルギー効率の高い製品やサービスを提供し、電力、水力、機械動力を、より確実に、効率的に、安全に、持続的に管理できるよう支援しています。最初の歯車駆動型トラック車軸を開発してから 100 年以上が経過した現在も、Eaton 社は設立時の原則に忠実に従い、業界を前進させる革新の精神を維持しています。現在、90,000 人以上の従業員を抱え、世界全体で 175 カ国を超える国々の顧客にサービスを提供しています。

 

Enterprise Governance Council が I4.0 の戦略、目標、優先事項を推進

世界の電力需要が拡大し続ける中、Eaton 社は複数の業界に対応する製品とサービスでその需要に応えています。その結果、社内に複数の異なる事業部門が存在します。

戦略的なビジョンを持ってデジタルトランスフォーメーション (DX) に取り組む必要性を認識していた Eaton 社は、その取り組みを促進し、すべての部門のリーダーから賛同を得るために、「Enterprise I4.0 Governance Council」という協議会を設置しました。この協議会は企業全体の効率向上を目指し、成長のためのさまざまな課題と機会を検討しました。また、業務パフォーマンス、品質、市場投入期間を改善するための全社的な目標を特定し、全社的な最優先事項を戦略の中心に据えました。具体的には以下のとおりです。

  • 機器のダウンタイムの削減と人為的ミスの最小化により、製造コストを削減し品質と安全性を向上させる
  • ツールのコストとリードタイムの削減により、複雑な設計の全体的なコストを削減する
  • 段取り替え時間の短縮とプよりシンプルなプロセス指示の作成により、トレーニング時間を削減する
  • 複雑な顧客要件への対応と納品時期の改善により、ビジネス拡大、顧客獲得、収益向上を目指す

LTI 社は技術コンサルティングとデジタルソリューションを提供するグローバル企業で、統合された世界で顧客が成功できるよう支援しています。31 カ国に事業を展開する LTI 社は、デジタルトランスフォーメーション (DX) に向けた取り組みを促進しています。LTI 社は Eaton 社が信頼するパートナーであり、自社の経験や市場におけるほかのデジタルトランスフォーメーション (DX) の成功事例に基づくガイダンスを提供しています。アーキテクチャー、製品の選択、ソリューション設計、導入に関する LTI 社の専門知識は、大規模な改革に必要な基盤構築の支えとなりました。

 

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Eaton 社は、自社の課題と改善の機会を見きわめ、多くの工場に拡張可能な一貫性のあるアプリケーションの展開に注力することで、全社的な成長に向けた準備を始めました。「私たちは、知識を共有する文化を育てることを目指しました。当社の目標は、従業員とお客様による問題解決、ビジネス価値の明確化、成功の測定をより容易にすることです」と、Eaton 社のインダストリー 4.0 担当バイスプレジデントである Craig Sutton 氏は語ります。事業のあらゆる部分に最適な方法を見つけるために、Eaton 社は体系的な評価プロセスを導入しました。

すべての製造施設に拡張可能な効果の高いユースケースを特定

Eaton 社は、個々の拠点で独自のアプリケーションを大量に開発するのではなく、標準化されたユースケースを企業全体に拡張することが、ビジネスに大きな影響を与え、成功するためには不可欠であることを認識していました。そこで、すべての製造施設で価値を迅速に実現できるユースケースを特定するために、1 年かけて準備と調査を行いました。まず、社内の課題と機会を洗い出し、理解度を確認しました。次に、PTC をはじめとする業界の専門家から学び、競合他社およびそれ以外の企業と比較するベンチマークを実施しました。

「デジタルトランスフォーメーション (DX) は長い道のりですが、PoC(実証実験)地獄や規模拡張の壁を回避するコツは、トップダウン式に少数のアプリケーションをすべての拠点に展開し、その後、すべてのチームで迅速にボトムアップ式の検証を行うことです」と Sutton 氏は話します。

Eaton 社は、企業全体に価値を迅速に提供し、変革の基盤となる 3 つの主要なユースケースを選択しました。生産状況のリアルタイムモニタリング (RTPPM)、設備のモニタリングと稼動 (AMU)、コネクティッドワークセル (CWC) です。これらのユースケースを組み合わせることで大きな影響力となり、総合設備効率 (OEE) と業務効率の改善、製品やサービスのイノベーションの促進、作業員の生産性の向上を実現できます。

そのビジョンを実現するために、Eaton 社は PTC の Factory Insights as a Service のユースケースと工場サービス部門 (FSU) の専門知識を活用することにしました。Factory Insights as a Service のユースケースにより、メーカーはこれまでにないスピードと規模で大きな効果を実現できます。PTC のお客様の 80% が最初に使用する 3 つのユースケースである RTPPM、AMU、CWC のために標準化されたアプリケーションは、PTC の ThingWorx 上に構築されています。これは、エンドツーエンドの産業 IoT プラットフォームであり、リアルタイムデータ分析、産業用接続、予測分析とともに、豊富な分析データおよびレポート機能を備え、製造と設備の状態を可視化します。

Eaton 社は、標準的なアプリケーションを活用して価値を生み出すまでの期間を大幅に短縮し、ほかのユースケースも簡単に追加できる基盤を構築しました。「プロセスや機器は工場によって大きく異なります。カスタムアプリケーションではなく標準的なアプリケーションを使用できるのはうれしいです」と話すのは、Eaton 社の IT デジタル設計および製造担当バイスプレジデントの Todd Earls 氏です。「特別な設定不要で使用できる標準的なソリューションにより、PTC のロードマップに沿って、必要なときはいつでも専門家や LTI 社からサポートを受けられます」

柔軟なツールと拡張性に優れたアプリケーションにより OEE を改善し、デジタルワークフォースを実現

最初の 3 つのユースケースは、それぞれ Eaton 社のデジタル基盤の重要な構成要素です。まず、RTPPM を使用して OEE を測定し、改善します。リアルタイムの情報に基づいて、業務パフォーマンスの全体像を把握し、生産量と処理能力を向上させると同時に、サイクルタイムを削減できます。RTTPM により、継続的な改善に不可欠な製造の KPI の共通理解、ボトルネックに関する分析情報、根本原因の分析のためのデータを得られます。さらに、遠隔監視によって、新型コロナウイルス感染症やソーシャルディスタンスの観点から重要な非接触の業務が可能になり、作業員が信頼できる情報源に安全にアクセスできるようになります。

OEE は機械のダウンタイムの影響を受けるため、機器のパフォーマンスと状態が総合的な効率にどのような影響を与えるか把握できる AMU は、RTTPM に欠かせないユースケースです。たとえば、インディアナ州サウスベンドにある自動車工場では、機械のアラートを活用して計画外ダウンタイムのリスクを排除し、熱と圧力で金属を変形させる産業設備である鍛造機械のラインの異常を検出しています。この機械のアラートは、鍛造機械が動作不能となる温度のしきい値を検出します。そしてアラートを受け取った作業員は、生産に影響が及ぶ前に問題を修正できます。

「機械のアラートを活用して工場の作業員を支援するだけでなく、複数の工場のパフォーマンスを評価して比較できるように工場のマネージャーや経営陣に分析データを提供しています」と Earls 氏は話します。

最後に、Eaton 社は従業員が必要とするデジタルツールの導入も行っています。まず導入したのは、航空宇宙部門の CWC でした。CWC により、工場の作業員は製品データと詳細なデジタルの作業指示にアクセスして、手作業によるミスを回避し、最終的に一つのシームレスな環境で部品の組立が可能です。す。より優れたツールとデータを作業員に提供することで、ミスの削減し、品質を向上させ、より柔軟なプロセスを実現します。

Eaton 社は、RTPPM および AMU ユースケースを 9 拠点への展開に成功しました。最初の 3 拠点は 9 カ月以内に稼働し、その後 3 カ月で残りの 6 拠点で稼働を開始しました。Eaton 社は 2021 年の終わりまでにさらに 17 拠点にこれらのアプリケーションを展開する予定ですが、すでに OEE は 10~15% 改善しています。さらに、AMU により計画外メンテナンスが 12% 以上削減されました。

「最初の 4 ~ 5 カ月間で、これらのソリューションにより、多額のコストの発生を回避できた事例が 4 件ありました」と Earls 氏は話します。

CWC とデジタルの作業指示はまだ展開の初期段階にありますが、手作業の削減 15% 以上という Eaton 社の目標に沿った成果が上がっています。さらに、その拠点での標準作業手順の 100% 遵守という重要な目標も達成しました。

 

企業規模で迅速に価値を実現する標準的なアプリケーションが、さらに高度なユースケースの基盤に

これまでの取り組みで、Eaton 社は大きな価値とビジネスへの効果をもたらす将来のユースケースと機能のための柔軟な基盤を構築しました。たとえば、現在、トレーサビリティのユースケースである「トラックとトレース」を製品の製造工程全体に導入するための設計段階にあります。また、高度な IoT 分析を AMU シナリオに適用することで、予知保全を導入できます。「AMU のフレームワークにより予知保全を実現し、多くの計画外ダウンタイムを回避できます」と Earls 氏は話します。

Eaton 社は、製造施設に行って特定の問題に即効性のあるソリューションを提供するだけでなく、すべてのプロセスを考慮しています。「これまでは、工場に行ってこのようなソリューションを提供し、うまくいけばその場を離れ、また別の工場のアプリケーションを導入する、という方法を繰り返していました」と Earls 氏は言います。「もう同じことを繰り返したくはありません。なぜなら、価値とはソリューションを提供することではなく、そのソリューションを使って何をするかということだからです」

Eaton 社のデジタルコアプラクティス担当マネージャーの Billy Ledbetter 氏は、機能の拡大と拡張に注力することで最大の価値を得られるという点に同意しています。「この方法論により、私たちが解決した問題を示し、達成した結果を実証することができます」と Ledbetter 氏は言います。「技術のために技術を活用しているわけではなく、むしろ、企業全体で価値主体の成果を促進する、一貫性のある繰り返し可能なプロセスを構築しました」

勢いに乗り、成長の文化を活かして継続的な進化を確実に

Eaton 社のチームは、PTC と LTI 社のサポートを活用しながら変革に向けた取り組みを続けていきます。今年は、スキル開発と新しい学習教材の作成に重点的に取り組んできました。特に、Vuforia Chalk と Vuforia Expert Capture を導入し、人材を派遣できない場合にもほかのサイトと連携できるようにしました。また、新しい業務の標準作業手順を文書化したプログラムプレイブックも作成しました。

最も大きな教訓は、標準化されたユースケースに焦点を当てたトップダウンの戦略が、迅速かつ広範囲に影響を与えるのに非常に効果的であるということです。Eaton 社は、社内の関係者を巻き込むことで、すべての製造施設に拡張するために必要なサポートと展望を構築しました。また、アプリケーションの基盤上に構築された各ユースケースにより、在庫の補充および最適化、拡張現実 (AR) によるアフターマーケットサービス、接続されたサプライチェーン管理などに対応する能力を向上させています。

Eaton 社は、一つの機能が次の機能への扉を開くことで、デジタル基盤を拡張する方法を認識しています。そして PTC は引き続き、業界最先端の技術とサポートで Eaton 社を支援していきます。

「デジタルトランスフォーメーション (DX) は長い道のりですが、PoC(実証実験)地獄や規模拡張の壁を回避するコツは、トップダウン式に少数のアプリケーションをすべての拠点に展開し、その後、すべてのチームで迅速にボトムアップ式の検証を行うことです」

- Craig Sutton 氏、インダストリー 4.0 担当バイスプレジデント、Eaton 社