課題 屋根材ビジネスでは、品質保証が最も重要です。欠陥のある製品からは多額のコストが発生し、さらに屋根全体の品質が低下して、保証修理や顧客満足度の低下を招く可能性があるからです。


Carlisle 社は IoT データ分析機能を活用して、カスタマーサービスの主力企業としての評判に応えると同時に現場作業員の工程を改善


 

製造業において、品質保証は最高品質の製品だけを工場から出荷するために不可欠で、これが企業の収益の増減を左右します。高度な IoT 技術を活用して、コストと無駄の削減ならびに最高レベルの顧客満足度の確保を実現したメーカーの事例をご紹介します。

屋根ビジネスを熟知している Carlisle Construction Materials (CCM) 社

にわか雨から逃れるために最寄りの建物に飛び込んだことがある、または 1 日を太陽の下で過ごした後に屋内で一息ついたことがあるという方なら、頭上の屋根に感謝した経験があるでしょう。かなり高い確率で、その屋根には Carlisle Construction Materials (CCM) 社が関係しています。

Carlisle Construction Materials 社は、商用または一般住宅向けの建設市場を対象に質の高い建材の製造と提供ならびに関連技術の提供を行う多角経営の企業です。Carlisle 社は約 50 年間にわたって屋根業界の主力企業として認められており、EPDM、TPO、PVC、金属製ルーフィングシステムを含む高性能な単層屋根ソリューションを提供しています。


carlisle-case-study-header1366x500

Carlisle 社はまた、ポリイソシアヌレートおよび発泡ポリスチレン製の断熱材や、さまざまな急勾配用屋根材、ダクトシーリング材、接着剤、金属部品なども提供しています。屋根材だけでなく、防水加工や骨組み工事などの建設業界全般にサービスを提供しています。Carlisle 社の関連企業すべてが、建物の二酸化炭素排出量を削減し、多くの場合にエネルギー消費とコストを最小限に抑える、持続可能で環境に優しい製品を提供しています。

ペンシルベニア州カーライルに本社を置く Carlisle 社は、米国内に 50 カ所の製造拠点を持つほか、複数の管理オフィスを構えています。また、海外にも製造拠点があります。

業務を効率化し技術のリーダー企業としての地位を確立するための大きな機会

屋根材ビジネスでは、品質保証が最も重要です。欠陥のある製品が工場から出荷されると、多額のコストが発生するためです。製品に欠陥がある場合、屋根全体の品質が低下して、保証修理や顧客満足度の低下を招く可能性があります。これにより本来は有用な製品の製造に費やすべき時間を欠陥の修正に費やすことになるため、生産性にもマイナスの影響が及び、著しい経済的損失につながります。

さらに、不良品を製造段階で特定および回避することは困難です。Carlisle 社の施設では、製造ラインがサッカー場の縦の長さほどあります。このため、製造を停止して再開する場合は常に多大な労力とコストがかかり、ラインの作業員にも影響を与えます。Carlisle 社の製造ラインでは毎年 20 億ボードフィートの断熱材を製造しており、ほぼ手作業による検査システムで品質を確保するには、膨大なエネルギーと集中力が必要になります。

Carlisle 社は以前、製造システムからデータを収集していましたが、そのデータを活用するためのより優れた方法を求めていました。ラインには既知の複雑な問題がいくつかあり、事後に調査が実施されましたが、従来の方法では問題とデータを結び付けて即座にリアルタイムな洞察を得ることはできませんでした。また、作業員、設計者、メンテナンス担当者にとっても、一貫した信頼性の高い方法でデータにアクセスし、データを使用することは困難でした。ラインの作業やデータ収集の多くは手動で行われており、担当者によって方法が少しずつ異なっていました。

複数の工場で発生していたこれらの課題に対応するために、Carlisle 社のチームはスタンドアロンの統計的工程管理 (SPC) システムを導入しました。これは、統計的方法を使用して工程の監視と管理を行う品質管理の方法で、工程が効率的に実施され、無駄のない、より仕様に適した製品を製造できるように支援します。

このような取り組みにもかかわらず、Carlisle 社のチームは組み込むセンサーや計測器の数、また監視すべき可変要素をなかなか判断できずにいました。結局、システム統合の欠如と、多くの SPC ソフトウェアが Carlisle 社の工場で使用されている継続的なフロー処理方法ではなくバッチ処理に基づいていたため、必要としていた結果を得ることはできませんでした。全体的に、SPC システムには工程の変動を正確に測定するために必要な柔軟性を備えていませんでした。

それでもなお、Carlisle 社は機械の中にまだ活用されていない大量の情報があることを把握していました。これらのデータを使用することで、業務を効率化し、工場全体の工程を標準化できます。また、現場作業員が業務を簡単にこなせるよう支援し、高い顧客満足度の維持が可能になりました。そのために必要なのは、データ分析に適したプラットフォームだけでした。

品質保証向上のための統計的工程管理の導入に ThingWorx を採用

ThingWorx は、製造および設備の状態分析のための PTC のエンドツーエンドの産業 IoT プラットフォームです。このソリューションを以前から知っていた Carlisle 社のチームは、ThingWorx が品質管理の向上に役立つだけでなく、デジタルトランスフォーメーション (DX) への取り組み全体で重要な役割も果たすことができると考えました。そこで、PTC と連携して、現場での品質関連の問題を解消することを目標に、まずスミスフィールドの施設から ThingWorx のパイロットを開始することにしました。

まず、ポリイソシアヌレート製の硬質断熱材を生産する一つの大規模な製品ラインに ThingWorx を導入しました。そして PTC と協力して大量の製造データセットを分析し、より詳細に検査する必要がある製造の主要な属性を決定しました。この結果に基づき、ThingWorx で新しい SPC 分析を実施し、製造行程で発生する可能性のある管理限界を超えた状態にフラグを付けました。

Carlisle 社は作業員と緊密に連携し、彼らが直面している課題とそれを事前に特定するためのデータの使用方法を把握しました。この段階で作業員の意見を求めたことが、細かな状況の違いを理解するうえで非常に重要でした。というのも、作業員は工程に最も近い存在であり、その経験はソリューションを構築する上で最も役立つからです。

Carlisle 社は、ダッシュボードのプロトタイプを作成し、リアルタイムデータを使って生産状況を表示するとともに、差し迫った品質問題とそのリスク要因に関する最新の予測およびアラートを表示します。作業員はすぐにこの情報を把握し、専門知識を駆使してラインの速度、温度、厚さ、圧力などのパラメータを調整できました。

その効果はすぐに明らかになりました。「SPC ソリューションにより、データをより詳細に分析できるようになりました」と話すのは、Carlisle 社の品質サービス担当ディレクター Tim Wickard 氏です。「まず数百個のパラメータに注目し、それを数十個に絞り込んで、最終的には数個の重要なパラメータを特定しました。実際の問題に関連付けられるまでデータを絞り込み続けました」と Wickard 氏は説明します。「このソリューションがなければ、関連する要因にはずっと気づかないままだったでしょう」

作業員の知識と製造分析の強力な組み合わせ

Carlisle 社が製造ラインのデジタル化に成功した要因は、製造ラインを担当している現場作業員の研ぎ澄まされた感覚です。Carlisle 社の現場作業員は常に最も近くでラインの動きを見てきました。

ThingWorx と SPC を導入する前は、作業員が長年の知識と経験を頼りに製造の問題を特定していました。その知識が活用されなくなることはありませんが、デジタル技術が加わることで作業員が職務を少し楽に遂行できるようになったと Wickard 氏は言います。「作業員は製造ラインの最も近くにいるため、彼らの声に耳を傾けることが重要です」と Wickard 氏は言います。「作業員の知識を取り込んで、モデル、分析、データ処理に関連付けることができます。私の経験では、観察力は非常に強力なスキルであり、当社の作業員はその点に秀でています」

Wickard 氏は、このようなスキルを活かし、分析に応用することで、最適なソリューションを見つけることが重要だと説明します。「当社が模索しているのは、『作業員の明日をより良くするにはどうすればよいか?』という点です。作業員のおかげで信じられないような進化を遂げているため、これは非常に重要な検討事項です」

製造の状態を安定させながら、製造の課題を大幅に削減し、将来の拡張を見据える Carlisle 社

ThingWorx のデータを使用するようになった Carlisle 社は、以前よりかなり正確に製造の課題を特定できるようになりました。かつては、手動で収集した少数のサンプルしか使用できず、得られるのは遅れた指標のみでした。SPC 分析により製造上のばらつきの原因となっている工程のパラメータを特定できるため、工場で即座に調整を加える能力が向上しました。

「適切な技術があれば、利益を向上させると同時に最高の製品品質基準を確保できることを証明しました」

Tim Wickard 氏
品質サービス担当ディレクター<br/ > Carlisle Construction Materials 社

製造の課題を特定し削減することで、さらなる節約効果を得ることもできました。「お客様に高品質な製品を提供するためには、ほんのわずかでも製造コストを削減することが重要です」と Wickard 氏は話します。「適切な技術があれば、利益を向上させると同時に最高の製品品質基準を確保できることを証明しました」

現在 Carlisle 社は ThingWorx と SPC 分析を一つの工場のみで使用していますが、ThingWorx を複数の拠点に拡張し、最終的には既存の SPC システムを置き換えることを計画しています。複数の施設に技術を拡張することで、知識の伝達という別のメリットも得られます。トレーニングを受ける従業員とトレーニング対象の新技術が増えるほど、企業全体の生産性と労働効率が向上します。製造システムの工程データをコンテキスト化し、統計情報で強化して製造の作業員が検証することで、Carlisle 社はデータをより高度な観点から確認できるため、予測と最適化の機会がもたらされます。

Carlisle 社が施設全体の業務のデジタル化に取り組み続ける中で、PTC とのパートナーシップは大きな価値をもたらします。また、従業員のトレーニングと安全性に対する意識向上のために Vuforia の AR 技術に新たに関心を抱くようになった Carlisle 社は、引き続き PTC とともに新しい技術ソリューションを検討できることを楽しみにしています。