超高解像度顕微鏡の製造会社が、事後対応型から予測メンテナンスへの移行により、平均修理時間を大幅に短縮

世界に変革をもたらす発見の一端を担っていると言える企業はごく少数ですが、ZEISS 社はその中の 1 つです。160 年前にドイツで設立された ZEISS 社は、世界中に 3 万人以上の従業員を擁し、光学およびオプトエレクトロニクス分野のテクノロジーを提供しています。

ZEISS 社は、創業者が再現可能な高解像度光学機器の製造方法を発見したことをきっかけに、一貫した品質基準が求められる商用顕微鏡を製造する世界初の企業になりました。現在、ZEISS 社の顕微鏡部門は、世界でも有数の幅広い製品を提供しています。ZEISS 社の機器は、医薬、化学、物理分野のノーベル賞受賞者 20 名以上の研究を支えてきました。

サービスの中断による莫大なコストが発生する可能性

50 万ドルから 150 万ドルに及ぶ高額な機器を利用している研究者や研究施設にとって、サービスの中断はあってはならない事態です。ZEISS Predictive Service 担当プロダクト オーナーの Christian Schwindling 博士は、「当社のお客様は、研究が中断する恐れのある、顕微鏡のダウンタイムが発生するタイミングを予測することができませんでした」と話します。

研究者や研究施設の双方にとって、機器のダウンタイムに伴う影響は甚大です。機器の調整が遅れるとプロジェクト完了の遅れにつながる恐れがあり、最悪の場合、研究者は試験や処理中の作業を終了せざるを得ない場合もあります。

主要な画像処理施設では、不可欠な機器として、ZEISS 社の製品を使用する傾向が強まっています。そのような環境で、大学やライフ サイエンス企業などは、1 カ所の施設にハイエンドの顕微鏡を導入しています。機器を融通し合い、他の部門や研究室による使用スケジュールを調整することで、研究コストを共有できます。

機器が停止すると、施設はコストを回収できなくなります。研究者が必要な機器の使用権を得るのに、数週間を要する場合もあります。「さまざまな理由から、このような施設や研究者がZEISS 社の機器を最大限に活用できるようにすることが不可欠です。ダウンタイムから復旧した後に研究スケジュールに復帰までに、多くの時間がかかる場合があることもその理由の 1 つです」と、Schwindling 博士は述べています。

稼働時間と稼働率の確保が困難な理由

ZEISS 社はこのような機器に多額の投資を行いながら、長い間エキスパートによるきめ細やかなサービスを顧客に提供しており、顧客の環境でダウンタイムが生じたときにはサービスエンジニアを派遣していきました。診断目的で一部のデータをコピーするためだけにサービスエンジニアを現地に派遣するのは、コストが大きくかかります。世界中に 800 名以上のサービスエンジニアを擁するZEISS 社のサービスコールは、利益を圧迫していました。顕微鏡関連事業を拡大した結果、このようなサービスコストも膨れ上がっていました。

デジタルトランスフォーメーションへの着手

顧客満足度の改善に取り組み続けている ZEISS 社は、ZEISS Predictive Service を開発しました。リモート状態モニタリング プログラムとして設計されたこのサービスの目標は、より迅速に機器の問題を診断し、システムの稼働時間を伸ばすことでした。想定されるメリットは、診断の改善、サービス所要時間の短縮、稼働時間の改善でした。また、現場の機器の動作をより詳細に分析しながら、顧客満足度の向上を図ることが可能な点も重要です。

このサービスでは、モノのインターネット (IoT) を活かして現場の機器からデータを収集し、クラウドで処理して、瞬時に本社で参照できる状態にします。このサービスによって ZEISS 社は、サービス エンジニアを派遣しなくても機器を迅速に診断できるようになり、予測サービスの導入にもつながりました。このようなサービスは、同社のハイエンド製品の利益促進要因の 1 つになると期待されています。

一部の顧客を対象に試験導入を開始

ZEISS 社は、年中無休で稼働する場合が多い病理用自動スライドスキャンシステム Axio Scan.Z1 を使用している顧客を対象に、新しいリモート状態モニタリングサービスの試験導入を決めました。ZEISS 社は予測サービスを実現するため、Axeda 社 (現在は PTC の傘下) の Machine Cloud Service を使用しました。IoT テクノロジー市場のイノベーター企業 Axeda 社は、安全な接続を確立し、さまざまな機器やセンサー、デバイスをリモートでモニタリングおよび管理できるテクノロジーを企業に提供していました。リモートで製品のモニタリングおよび保守サービスを行い、ソフトウェアのアップデートをライブアップデートできるように企業を支援する、Connected Machine Management アプリケーションセットも提供していました。

Axio Scan のセンサーからデータを収集する Axeda 社のテクノロジーを導入した ZEISS 社は、ドイツ、オーストリア、スイスの一部の顧客を対象に試験導入を開始しました。5 年間の試験導入後には、学術界やバイオ医薬品業界の ZEISS 社の顧客のうち、85 % が Axeda 社のプラットフォームに接続しました。「当社のお客様はこのサービスに感銘を受けています。影響が大きくなる前に問題を事前に解決できるという点を、非常に気に入っているようです」と、Schwindling 博士は言いました。

4 カ月で ThingWorx への移行に成功

試験導入の成功を受けて、ZEISS 社は予測サービスを世界中に導入し、他の製品にもサポートを拡大する計画を立てました。しかし、PTC が Axeda 社を買収し、産業用 IoT (IIoT) プラットフォーム ThingWorx を立ち上げた時、ZEISS 社は、ThingWorx に移行するか、社内で IoT テクノロジーを開発するか、新しいテクノロジーベンダーとやり直すのかの選択を迫られました。

ZEISS 社は、従来から使用していた Axeda のシンプルな接続モデルが ThingWorx でも同様に機能すると認識していましたが、十分な情報に基づいた意思決定を下すため、総合的な技術面のレビューと概念実証の実施に踏み切りました。

技術面のレビューでは、接続性オプション、アプリケーション開発ツール、アナリティクス機能など、さまざまな機能が調査されました。最も優れていたのは ThingWorx でした。製品に対する高評価も導入決定の要因になりました。

導入決定後に、カリフォルニアで概念実証が実施されました。ThingWorx SDK を基盤にカスタマイズされたエージェントが、ZEISS 社の X 線顕微鏡からのデータを収集してログファイルを処理し、それを ThingWorx Platform に送りました。これにより、X 線源をリモートで測定できるようになりました。

「ThingWorx をテストしたカリフォルニアの同僚が 非常に満足していました」と Schwindling 博士は述べています。

Microsoft Azure の利点

Microsoft Azure も、テクノロジー コンポーネントとして重要な役割を果たしました。ZEISS 社は、Azure のクラウド環境を使用している、Microsoft の長期的な顧客でした。Azure により、充実したプラットフォーム サービスに迅速にアクセスし、必要なインフラストラクチャを数カ月ではなく数時間でセットアップできました。また、PTC と Microsoft の緊密な連携により、ZEISS 社は豊富な機能を容易に拡張し、活用できるようになりました。

ThingWorx と Azure のクラウドの組み合わせによって、エンタープライズレベルのセキュリティとスケーラビリティを備えた最高水準の IoT 開発ツールが提供され、ZEISS 社はグローバル規模でアプリケーションを迅速に構築、管理、導入できる体制が整いました。

ZEISS 社は、わずか 4 カ月で移行を完了できたことに満足していました。これは、Axeda に関する PTC の知識を活用し、長年にわたる PTC ThingWorx のシステム インテグレーターであり、ミュンヘンに拠点を置く doubleSlash Net-Business GmbH 社と提携することで実現しました。doubleSlash 社は、接続機能を持つスマート製品分野の機能開発のサポートに注力しています。

「統合を支援するパートナーとしてdoubleSlash 社を選んだのは、Axeda と ThingWorx の両方の知識を備えていたからです。doubleSlash 社は、プロジェクトを体系的に指導してくれて、1 年間で 450 のシステムを接続できました。これは驚くべき成果でした」と Schwindling 博士は述べています。

サービス最適化の効果測定

新しいソリューションの導入以降、ZEISS 社では量と質の両面で効果が現れています。集計結果によると、ZEISS 社は 13 カ月で初回修理完了率を 7 % 改善し、1 年間でリモートでの平均問題解決時間を大幅に短縮しました。

リモート予測モニタリング サービスと定型業務の自動化によって、ZEISS 社は調整に伴うダウンタイムを 1 日から 1 ~ 2 時間に短縮できました。「X 線システムの調整が必要なタイミングを確認し、技術者を派遣して定期的な調整業務を開始できます。今後はサービス技術者に通知を送り、その技術者がお客様に連絡することで、お客様自身が調整を行えるようになります」と Schwindling 博士は述べています。

明るい未来

ZEISS 社は、予測モニタリングサービスの可能性に期待しています。ZEISS 社は、機器の傾向をモニタリングし、コンポーネントの故障を事前に予測できるダッシュボードを作成する予定です。これにより、サービス技術者を派遣して修理できるようになります。さらに、リモートで修理できるケースも増加する見込みです。

「機器をお客様に配送する前にテストを実施していますが、研究室での使用環境に応じて、すべてのコンポーネントの組み合わせをテストすることは不可能です。当社の新しいサービスでは、パフォーマンスパラメータを収集して傾向を特定できます。今後は、しきい値に基づくアラームを導入し、特定のコンポーネントがまもなく動作を停止する可能性があることをお客様に警告し、予防策を講じることができるようになります」と Schwindling 博士は述べています。

ZEISS 社は Azure を使用し、顧客にシステムのパフォーマンスに関する分析情報を提供する計画を立てています。また、Digital Customer Companion という顧客向けポータルも導入しており、このポータルにログインした顧客は、自ら運用している ZEISS 社の機器の状態や使用状況などの詳細を確認できます。