課題 あらゆるデジタルトランスフォーメーションにおいてコネクティビティと可視性は重要な最初のステップですが、先の見えないあらゆる局面で先頭に立ち続けるには、一貫した改善への取り組みが必要です。そのためには、現在のニーズを考慮した解決だけではなく、将来のニーズを予測した解決も必要になります。


何も行動を起こさずにこの時代を切り抜けられる企業などありません。製造業は特に。常に一歩先を行く企業のみがチャンスをつかむことができるのです。今回ご紹介する Rockwell Automation 社は、デジタルトランスフォーメーションの初期段階を乗り越え、継続的な改善の状態に達しています。だからこそ、先が見えない未来でも常に最前線に立つことができています。

Rockwell Automation 社は常にイノベーションの最前線に立つ

1 世紀以上にわたって成功を継続させてきたと断言できる企業は、何社あるでしょうか?Rockwell Automation 社はその 1 つです。1903 年に世界初のモーター制御企業として誕生した同社は、テクノロジーと製造に携わる著名な大企業へと成長を遂げました。流れ作業方式の生産ラインの発明から産業用ロボットの台頭まで、さまざまな変革的な事態に直面しても、Rockwell Automation 社は常に業界のトップ企業の位置づけを維持してきました。117 年間も最前線に立ち続けた Rockwell Automation 社だからこそ、117 年間も繁栄を続けてきたと言えます。現在 Rockwell Automation 社は、変わらぬイノベーションの心構えで次の時代の波に取り組んでいます。

世界的な製造業であると同時に業界をリードするテクノロジープロバイダーでもある Rockwell Automation 社は、独自の立場から自社のデジタルトランスフォーメーションを促進しています。製造業としては、23,000 名の従業員のうち約 3 分の 1 が世界中に展開する 20 カ所の製造プラントで勤務し、約 400,000 の SKU から成る製品カタログを管理しています。また、産業用オートメーションとデジタルトランスフォーメーションに特化した世界最大の企業としては、世界中の企業のプロセス改善、非効率の削減、生産性の向上に取り組んでいます。

Rockwell Automation 社は自社のデジタルトランスフォーメーションも押し進める

このような伝統を受け継ぐ Rockwell Automation 社の製造部門は、「デジタルトランスフォーメーション」が流行語となる前からこれを受け入れていました。まず、複数の分散したシステムを、世界中の多数のシステムを管理可能な 1 つのエンタープライズリソースプランニング (ERP) システムに統合しました。それと並行して、一元的な記録システムとして製造実行システム (MES) を展開し、その後数年をかけて各プラントに拡張して、工場、プロセス、人材を 1 つの MES とつなぎました。

このような対策により、Rockwell Automation 社は OT と IT の融合という領域で先頭に立ちました。IT システムと OT システムを統合することで、製造エンタープライズ全体に広がる業務、ビジネス、トランザクションデータにアクセスし、これらをモニタリングして利用するための新たな機会をもたらしたのです。こうして、全設備でワークフローとプロセスを標準化するための基盤が整いました。Rockwell Automation 社は、世界中の工場をつなぎ合わせるための世界的な標準アプローチを確立し、デジタルトランスフォーメーションの次の波のための準備を整えました。

その成果は大きなものでした。Rockwell Automation 社は総所有コストを削減し、在庫日数を 120 日から 82 日に減らし、年間の資本的支出回避 30 % を達成しました。また、市場投入期間を短縮し、サプライチェーンの納品が 96 % に増加する一方でリードタイムが半減しました。さらに同社の見積もりによれば、生産性が年間で 4~5 % 向上しています。

成功の鍵は継続的な改善

Rockwell Automation 社は、同社の歴史を通して、先の見えないあらゆる局面で先頭に立ち続けるには、継続的な改善への取り組みが必要であることを示してきました。そのためには、現在のニーズを考慮した解決だけではなく、将来のニーズを予測した解決も必要になります。つまり、継続的にオペレーションを最適化し、最大の資産である作業員全体でより優れた意思決定を下せるようにするための新しい手法が必要です。

自社のデジタルトランスフォーメーションを押し進め、大きな改善を実現していても、Rockwell Automation 社はその栄誉に甘んじることはありませんでした。複数の工場をつなぎ合わせ、世界全体で一元化されたシステムを実現した同社の視線は次に向いていました。

Rockwell Automation 社は、オペレーション間の標準化を促進することで、コネクティビティのメリットを最大限に引き出したいと望んでいました。そのために、コネクティッド・エンタープライズの専門家チームが、工場の設備をさらに最適化すると同時にデジタルツールおよびリソースで作業員を支援することを目的とした主要なユースケースに集中的に取り組みました。

Rockwell Automation 社は PTC のテクノロジーをベースとする FactoryTalk® InnovationSuite で変革を促進

Rockwell Automation 社は PTC のテクノロジーをベースにした FactoryTalk InnovationSuite を導入し、変革の次の段階への取り組みを開始しました。このスイートは、世界中に広がる 6 カ所の施設で、「エッジツーエンタープライズ」の分析、機械学習、モノのインターネット (IoT)、拡張現実 (AR) を産業オペレーションに直接組み込みました。この高性能なスイートは、データアクセスを容易にし、より多くの情報に基づくビジネス上の意思決定を可能にします。また、長期的な成長と継続的なイノベーションも促進します。FactoryTalk InnovationSuite は、製造業が自社の人材、製品、プロセスを最適化し、産業変革を促進するために利用できる、最も包括的かつ効果的なソリューションです。

このテクノロジー自体が大きな可能性を秘めていますが、複数のシナリオや設備に拡張可能な固有のユースケースがなければ、その価値は制限されてしまい、Rockwell Automation 社が目指す 2 桁レベルの影響を及ぼすことはあり得ません。世界的な展開を成功させるために、同社は世界中のオペレーションと従業員に最大のメリットをもたらすであろうユースケースを特定しました。各ロケーションでそのユースケースをパイロット運用することで、デジタル文化へのシフトを促進し、従業員が適切なスキルセットを習得できるよう支援できました。これらのユースケースは、大まかに言って、インテリジェントな設備の最適化から作業員の生産性、エンタープライズオペレーショナルインテリジェンスに及ぶものでした。

インテリジェントアセットの最適化

製造とパフォーマンスの問題に保守的なアプローチを採用している製造業があまりにも多く、このような企業は手作業によるモニタリングプロセスで機械の状態と利用率を評価しているか、オペレーションの最適化に役立つ可能性のある重要な情報を把握する機能を一切持っていません。その結果、ダウンタイムが発生し設備の利用率が低下して、修理に高いコストや無駄な時間がかかることが珍しくありません。また、機械とオペレーションの複雑性が増加する中、その影響も大きくなっていきます。

これらの課題を克服するために、オペレーションチームは設備の最適化に対するインテリジェントなアプローチを実現するという目標を掲げ、戦略的なユースケースに取りかかりました。リアルタイムモニタリング、診断、予測的および処方的分析を利用することで、重要な可視性を獲得し、機械の状態や診断をよりよく把握できるようになりました。このような強力なモニタリングツールを取り入れたチームは、計画外ダウンタイムを回避し、設備の利用率を最大限に高めることができました。チームがこの領域で導入した 3 つのユースケースは以下のとおりです。

  • スループット
    Rockwell Automation 社は強力なリアルタイムモニタリングおよび分析ツールを利用して、アウトプット量を増やすと同時に、生産されるユニットあたりの人件費を削減できました。(特にユニット間の時間とステップあたりの時間に関して)製造プロセスの詳細なデータ分析を行うことで、Rockwell Automation 社は需要の高い新製品のスループットを最適化できました。ある設備では、労働効率の 33 % 向上、アウトプットの 70 % 増加、トレーニング時間の 50 % 削減という 2 桁の成果を達成しました。
  • 予測メンテナンス
    Rockwell Automation 社は、複雑性も使用期間も異なる 35 台の射出成形機を使用していたため、機械の状態を効率的に判断し、ダウンタイムを回避することが困難でした。IoT テクノロジーを利用して古い機械から重要な情報をリアルタイムで収集することで、同社は工場の状態を一元的に把握できるようになり、生産性を 8 % 改善できました。これにより、品質管理を強化し、機械の稼動時間を改善し、メンテナンスのニーズを機械の利用率に基づいて満たすことができるようになりました。
  • 分析
    長時間に及ぶボールグリッドアレイの製造時間を短縮するために、チームはボールグリッド接続の状態の良し悪しを判断する新しい機械学習のテストをパイロット運用しました。基板に塗られた接着剤の 3D プロファイルを作成することで、不良接着剤プロファイルがあるかどうかを簡単に判断できるようになりました。その結果、アセンブリの早期段階で問題を検出できるようになり、修正にかかる時間が数時間から数分に短縮しました。また、品質保証が改善され、接着剤関連の欠陥が 51 % 減少しました。

Rockwell Automation 社は、これらの各ユースケースを介して設備効率の最適化、機械のダウンタイムの削減、スループットの増加を実現し、顧客の需要を満たしました。そして、これは始まりに過ぎません。

デジタルワークフォースの生産性

多くの製造業と同様、Rockwell Automation 社はデジタルワークフォースの管理が困難であることを理解していました。監督者が機械のパフォーマンスを明確に把握していないため、多くの場合、作業者の問題と機械の問題を切り分け、最高のアウトプットを確保することが困難でした。さらに、配線などのスキルセットの需要が高まる中、従業員に対して適切にトレーニングを実施するための体系的な手法がありませんでした。高い離職率とあいまって、この点が品質と安全性を大きく脅かしていました。

これらの問題を解決することで実現できるのは、収益の改善だけではありませんでした。チームはデジタルツールで作業員を支援することを目指しました。生産性を向上させるためだけでなく、従業員が日々、自分の作業結果について満足できる環境を構築するためです。同社は作業員をより適切に支援するために、4 つのユースケースをターゲットとしました。

  • 作業キューの可視性
    高度な自動化が進んだ重要なラインおよび設備で作業キューを十分に把握できない場合、ラインで処理用の材料が不足することがよくあり、結果的にコストのかかる予定外のラインのダウンタイムが発生してしまいます。Rockwell Automation 社は、IT および OT ソースのデータを統合して視覚化することで、材料の不足に起因するラインの枯渇状態から発生するダウンタイムを 75 % 削減し、作業者が業務を最適化できるようにしました。
  • パフォーマンスレポートの標準化
    同社のチームは 1 時間あたりのパフォーマンスに対するダウンタイムの影響をより明確に把握する方法を必要としていたため、全プラントで使用できる共通の KPI ダッシュボードを開発しました。スケジュールシステム、SAP、MES、その他のソースに分散した情報を統合した、この構成可能なモジュール式のダッシュボードにより、作業員はより適切にパフォーマンスの傾向を視覚化し、データに基づいて意思決定を下し、作業効率を 13 % 高めることができました。
  • AR が支援する配線トレーニングおよびテスト
    従業員が効率的に配線を行うことができるようにすることは、離職率の高さから次第に困難になっていました。さらに、成功を測定する客観的な方法がなかったため、品質と安全性が脅かされていました。Rockwell Automation 社は、AR テクノロジーを活用して優れたトレーニングを魅力的な方法で提供することで、従業員のトレーニングを行うと同時にコンピテンシーを測定して、スキルギャップを特定できるようになりました。
  • AR が支援する標準作業指示の製品移行
    同社のチームは、スイスとポーランドの間でプラントを移転するために、国や言語をまたいで重要かつ詳細な技能の伝承を行う必要がありました。スイスのチームが AR テクノロジーを利用して作業指示の記録を開始し、写真、ビデオ、音声によるステップバイステップの指示にタスクを分割しました。これにより、トレーニングに必要な時間を 30 % 削減できました。スイスのオペレーションチームはわずか 1 日で 80 のビデオからなるライブラリを構築し、プラントが稼働を始める前に、ポーランドのチームに対してトレーニングを提供できました。

Rockwell Automation 社は、1 つのラインのみでなくエンタープライズ全体で、生産性、安全性、従業員の満足度を改善するために使用できる実用的な拡張情報を作業員に提供しました。「5 分間、問題を抱えたまま作業をしている場所にアプローチすることを目指しています。5 分で問題を解決できなければ、サポートグループにエスカレートされます。トラブルがある場合は、サポートに連絡してもられば、問題をより迅速に解決できます」と Moeliono 氏は言います。Rockwell Automation 社は各ユースケースを介して人とテクノロジーの結びつきを支援し、従業員と顧客に最善の結果をもたらすことができました。

エンタープライズオペレーショナルインテリジェンス

前述したユースケースはスタート地点に過ぎず、新たなイノベーションとオペレーションにインテリジェンスを注ぎ込むための手法を模索し続けなければなりません。現在、同社は全工場のパフォーマンスを改善するために、障害の継続的な特定、実用的な KPI、廃棄の優先順位付け、価値ある成果物のトラッキングなどを介して、エンタープライズ規模のオペレーショナルインテリジェンスを実現することを目指しています。たとえば、Rockwell Automation 社はワークフローを標準化し OT システムと IT システムを統合していたため、コネクティッドサプライチェーンの具体的な計画を策定し、品質に関する問題をトラッキングおよびトレースできました。これらのメリットは、データとユースケースが追加されると飛躍的に増大します。

  • サプライチェーンのトレーサビリティの確保
    Rockwell Automation 社で電子アセンブリのコンポーネント部品の需要が急増し、外部ソースから材料を調達しなければならないことがありました。その際、同社のサプライチェーンに不適合部品が入ってきたことが即座に特定されました。FactoryTalk MES、IT と OT の統合システム、標準化されたプロセスの情報を活用した同社は、問題を特定し、サプライチェーン全体でトレースして、その後はもう問題が発生しないようにすることができました。この機能により、どのような状況でも、リコールを 80 % 以上削減することができます。

この品質の問題は、柔軟かつインテリジェントなソリューションを利用することで、一見範囲の狭いユースケースをグローバルな用途に拡張した一例に過ぎません。「目先を変えて問題を回避しつつも、そのときの製造を混乱させることもありませんでした。全体的に作業が楽になりました」と話すのは、Rockwell Automation 社の製造 MES オペレーションマネージャーを務める Brian McCaffrey 氏です。「当社のビジネスにとって不要な労力を大幅に削減できました」

次のステップ

Rockwell Automation 社は、オペレーションの最適化と作業員の機会の強化を継続する中で、コネクティッドシステムと柔軟なテクノロジーを活用して新たなイノベーションに対応しようとしています。製造のトップ企業としての位置づけを確かなものとしている Rockwell Automation 社は、変革というビジネス上の優先事項を体現した好例です。その証拠は、テクノロジーが大きな意味でも小さな意味でも改善を支援する同社のオペレーション全体で見受けられ、そこで働く人々は日々最高の仕事を成し遂げようと励んでいます。

今後 Rockwell Automation 社が目指すのは、こうして獲得した新たな環境の再編成です。同社は、さらに大きな顧客価値と従業員価値を生み出すという目標を掲げ、作業員、機器、プロセスをさらに改善する手法を見いだすという課題を自らに課しています。

同社は画期的な AR テクノロジーを活用して従業員により優れたトレーニングを提供し、多くの手作業を自動化することで、より高いレベルの職務を担当する機会を増やしています。また、大量のデータを改良された予測的および処方的分析機能に変換することで設備を保護し、これまでにない高い精度で機械のパフォーマンスとメンテナンスを管理しています。

同社は日々、自社のテクノロジーの機能について学んでいます。それを制限するのは、想像力と、少しずつ継続的に改善と変革を続けるために必要な時間のみです。